家族の集まる茶の間は、客座敷のような床の間がついていない場合も多かったが、それに代わって通常出入りする側から向かって正面に茶だんすが据えられて、それを背にした位置が亭主の席であった。亭主はその席でひょいと振り向いて茶だんすから印鑑を出したり、茶だんすの上に置かれているラジオに対して、今言うチャンネル権を行使したりしたのであった。亭主席から見て左には長火鉢があり、それをはさんで主婦の席が定まる。長火鉢の上にはいつも鉄瓶の湯が沸いていた。
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長火鉢がなぜ亭主の左に位置するかといえば、それは主婦の席からみて右に当たり、主婦がお茶を入れるのに便利だからであろう。ちなみに、こういう位置関係は農家の囲炉裏における伝統的席次を継承している。囲炉裏ばたでは、土間から見て正面がヨコザと呼ばれる亭主の席で、ヨコザから見て左がカカザ、つまり主婦の席になる。ヨコザから見て右、カカザと対面する位置はキャクザといって、本来は客の席だが、普段は子供が座る。土間に近い側、つまりヨコザと向かいあう位置はキジリと呼ばれる末席で、気をつかう必要のない来客はここに座らされた。こういう時代には、生活空間の中の「席」というものがひとつごとに異なる意味を帯び、そこに座る人間が家族集団の中で担う役割を象徴していたのであった。